マリ共和国のホストタウン・ 盛岡市の激動の1年 ／　佐藤 玲奈盛岡市交流推進部スポーツ推進課 スポーツツーリズム推進室

マリ共和国のホストタウン・ 盛岡市の激動の1年（からばす38号より）
盛岡市交流推進部スポーツ推進課 スポーツツーリズム推進室　佐藤 玲奈

  皆さん初めまして。私は盛岡市の職員でマリ共和国のホストタウン事業を担当しています。
　盛岡市は日本で唯一のマリ共和国のホストタウンです。「ホストタウン」とは、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に参加する国・地域と文化やスポーツなどを通じて交流を図る自治体のことです。
　2020年１月、盛岡市と柔道マリ共和国代表が事前合宿受入れに関する覚書を締結した際に、カラ代表の村上さんのトークショーや西アフリカ伝統楽器「コラ」奏者のママドゥ・ドゥンビアさんの演奏を行いました。盛岡市民の多くはこのとき初めてマリ共和国の暮らしや文化を知りました。
　柔道マリ共和国代表選手は今年７月に事前合宿を予定しており、私の仕事は選手の受入れ準備と市民にマリ共和国を応援してもらえるようにPRすることです。恥ずかしながら、今の部署に異動するまでマリ共和国を全く知らず、情報収集から始めることにしました。
インターネット上では旅行者のブログなどが検索できますが、内容は数年前の話で、現状は全く異なります。マリ共和国の最新情報を調べようとしても日本語で作られているページがあまりありません。カラから提供される現地情報はとても貴重なものでした。
　2020年３月、新型コロナウイルスの影響で東京2020オリンピック・パラリンピックの延期が決定し、大規模なイベント開催に制限がかかりました。
延期の期間を使ってマリ共和国柔道連盟へのビデオレター送付や市ホームページでの情報発信などSNSを活用した取り組みを続けました。
2020年8月にマリ共和国でクーデターが起きました。これほどの事件が起きて初めて日本で大々的に報道され、岩手の新聞でも記事になりました。「マリが大変なことになっているね」と連絡をくれた方もいました。マリのことが少しずつ市民に浸透してきたことを実感しました。
　2020年12月に盛岡市の広報紙でマリ共和国の特集を組みました。以前にマリ共和国をテーマにしたアートマイル壁画を制作した岩手県立盛岡第二高校美術部の生徒たちは「最初、マリ共和国のことが全く分からず大変でした。でも調べていくうちに、自分たちの描く壁画でマリ共和国のことをたくさんの人たちにもっと知ってもらいたいと思いました」と話してくれました。
また、村上さんに来ていただき、同美術部や家庭クラブなどの生徒と一緒にマリ料理の試食会を実施したときには「私も家で作ってみたいと思いました。たくさんの人に食べてもらいたいです」と話してくれました。彼女たちは刺激を受け自ら行動しようとしており、とても嬉しくなりました。
　また、（一社）盛岡青年会議所がマリ共和国へ識字教室を建設するための募金活動を行ってくれました。来年には「コラ」と箏のコラボ演奏やマリ料理を使った食文化体験などを予定しています。これからもマリ共和国とのつながりを続けていけるように今後も取り組んでいきたいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。

からばす37号発行に当たって／村上 一枝（カラ代表）

からばす37号発行に当たって（からばす37号より）
カラ代表　村上 一枝

　■ 最初のショック
　前回、2016年11月にからばす36号をお届けし、その後1年以上もの間お休みをいただきました。
　昨年2017年3月にカラは法人格を返上し、1993年の会発足時のように任意団体となりました。一番大きな理由は、現地の人々、特に女性が力強く自立してきたことです。
知識を得、技術を知って収入を得ることが出来るようになりました。村に指導出来る女性が生まれ、男性も女性に理解を示すようになりました。
　更に力強いことに地域の行政が支援してくれるようになり、カラが開設した産院にソーラパネルや小型の冷蔵庫、その他の備品を寄付してくれます。これまでは薬品を100kmも離れたクリコロ町まで買いに行きましたが、近頃はコミュンでストックしてくれるようになり大変便利になりました。これは、他のコミュンよりも抜きん出て発展してきたことに対するコミュン長の喜びや自慢の表れであり、カラが現地を離れた後もコミュンの更なる発展を望んでのことと思います。
　また他の大きな理由は、我々日本人のマリへの渡航が制限されてきたことです。
ご存知のようにマリの主要都市で度々発生するテロの為です。そして現地スタッフからの連絡で「数ケ月後に大統領選挙があり、選挙が終わらないと安全にはならない」ということなので、「その後の渡航がベターである」ということです。
支援活動を行っている私たちが常に考えていることは、支援はいつまで、どのあたりまで続けるか？　ということです。
　このような事情で、思い切ってカラの支援事業を縮小し、村の人たちの手で可能になった事業は手放そう、ということになりました。産院運営も女性適正技術の活動も識字教室・野菜栽培や植林も全て村の管理になりました。現地スタッフも数人解雇しました。
彼らは村の指導者になり、覚えた技術で生活を支えています。
　村の人たちはカラと共に歩んできたこと、そこから生まれた成果を確認し誇りと自信を持って更に自立への道を歩んでいます。
　今後は、カラが過去に事業を展開していたバブグ村からの要請を受け、この地域の保健環境改善事業を行うことにしました。バブグ村周辺の人たちもトウグニコミュンの発展を見、聞きし目覚めた感があります。今までのトウグニコミュンでの支援活動は周囲の地域に強い印象を与えていることは確かです。

初めての日本訪問／アワ カンサイ（カラ現地スタッフ）

初めての日本訪問（からばす36号より）
カラ現地スタッフ　アワ カンサイ

　■ 最初のショック
　今年2016年7月15日の夜16時15分、憧れの東京・羽田空港に着いた。
前日深夜近くにバマコをＡＦ（エアーフランス）で出発、機中では眠れないほどにウキウキしていた。
シャルルドゴール空港では約11時間の乗り換え時間があったが、私は時計を持っていなかったので時計のある場所から動かず、ジーッと時間がたつのを待っていた。しかし、昼頃になるとお腹がすいてきた。
村上が6月にマリに来た時に来日時の注意をいろいろと教えてくれた中で、「機中で食事に出たパンを余分にもらい、乗り換え時間に食べたらいい」と言われていたので、それをランチに食べた。
オレンジジュースを買ったが2，000cfa以上と高価なのでビックリ！　マリでは400cfaも出せば買えるのに、と思いかなりのショックだった。
そして空港の待ち時間で驚いたことは、免税店に高級な品物が多く並び、それを沢山買っているアフリカ人がいて、「こんなにアフリカ人は金持ちなのか！」とショックをうけたが、多分買った品物は国に持ち帰り、金持ちに売るのだろうと思った。

■ 中国へ研修に向かうマリ人
　シャルルドゴール空港で日本への便を待っている時に、私の座っている椅子の横にマリから一緒だった男女の一団が座った。多分17〜8人だったと思う。同国人という親近感から話が弾み、彼らはセグー地域から北京へ向かうのだと聞いた。
マリへの支援の一環として､セグー地域に中国の団体が製靴工場を開設、そこで将来指導者として働く為に3ケ月の研修を受けに北京へ行くのだという。この度の研修への出発の為に、100人以上のマリ人が事前にセグーで靴製作の研修を受け、その結果優秀な人たちが選ばれ北京へ向かうのだという。
来年からは市場にマリ製の靴が作られ販売されるからそれを買ってくれと宣伝もされた。私は今回の日本行きに備えて、かっこいいと思った中国製の靴を10，000cfa（約2，000円）も出して買い履いて来たが、すでに靴底がパカパカしていつ壊れるか非常に心配である。これからはもっと上等な靴が出来るのだろうか？

■ 羽田に着いた時
　案の情、手荷物検査で私の荷物がすべて検査された。不都合なものは勿論持っていないが、ジュースを作るための乾燥ハイビスカスを持っていた。
若い担当官が「これは何ですか」と聞いたので「ハイビスカス」と答えた。再度聞かれたのでまた同じように答えた。しかし彼は乾燥ハイビスカスというものの存在すら知らないらしく、周囲にいた老年の担当官を呼んでアレコレと眺めていたので「ティー！ スッパイ！」と答えたら、周囲の人たちがドット大声で笑いだし、「イイヨ　イイヨ、行きなさい」と手で出口を示してくれた。私も「アリガトウ」と言ってニコッと愛想笑いをして出て来た。
　村上は来ているだろうか？　と心配しながらオズオズとロビーに出てきた。しかしそこには村上はおらず、宮城学院の鈴木理恵先生の「アワさーん」という大声が聞こえて安心した。
村上は飛行機が到着して１時間も経過しているのに私が出てくる気配がなかったので、心配して案内所に聞きに行ったところであった。でもすぐにいつも通りの村上に会うことが出来た。

■ 日本で最初に感激したこと 　たくさんのことが私に感激を与えてくれた。羽田空港は清潔でゴミは一つなく、ピカピカの床は滑りそうに綺麗だった。迎えの人たちもキチンと決められた場所で待っていることや、ポーターがチップを貰うために先を争って旅行者の荷物を運ぶ光景も無く、バマコ空港とは違っていた。非常によくオーガナイズされていることであった。
少し恥ずかしかったことといえば、バマコの空港を出る時に、村上から借りた大きなスーツケースの他にもう一つの荷物があった。これは中国製のバッグなのですぐ壊れることを想定し、かっこよくはないがバマコの空港で透明ビニールで全体を厳重にグルグル巻きにしてもらった。
しかし羽田に着いたらそのような荷物を持っている人は一人もいなかった。みんなきれいなスーツケースで、運ばれてくるのも順序正しくキチンとベルトに乗ってきた。
　空港からはカラの事務所に行くために吉祥寺行きのバスに乗った。鈴木先生が夕食を買ってくれたのでバスの中で食べることになった。後で聞いたがこれは、「弁当」というのだそうだ。
この弁当を開いた途端とても綺麗で、小さく切った色々な食べ物がキチンと並んでいた。こんなのは見たこともなかった。米はマリでも食べるが、他は当然初めて食べるものばかりであった。嫌いなものはなかったが、全部は食べ切れなかった。
バスの窓から見える夜景がきれいだった。明日から日本での生活ができると思い、このような境遇に満足した。感激することが多かった。

■ 東京の初日
　目が覚めたら、東京で村上の家の布団に寝ていた。まったく嘘のような現実である。
少し前までマリの農村にいて村の人たちと活動をしながら賑やかに過ごしていたのに、飛行機に乗ると簡単に、しかもすぐ直ぐに着くことができるという現実がまだしっかりとは信じきれない。
村上と在日中の仕事の打ち合わせをしてから、近くのマーケットに出かけたが、ここでもびっくりした。
店の中にゴミは落ちていなかった。商品は棚にキチンと並んでいる。一つ一つ清潔にパック詰めになっていて、マリのように生きたままの鳴き声をあげる鶏は売っていなかったし、血を垂らした牛肉もぶら下がっていなかった、ハエも飛んでいなかった。
　お金を支払うとみんな「ありがとうございました」と挨拶をしてくれ、なんて親切なんだろうと思った。
この親切で思い出したが、羽田に着く前に入国書に記入する必要があった。しかし、この書類の説明や質問はフランス語ではなく日本語と英語だった。
ＡＦ（エアーフランス）に乗ってきたのに、フランス語で書いていないとはおかしな話だと思いながら、フランス人の乗務員に説明してくれるようたのんだら、「今忙しいから」と簡単に拒否された。仕方がないので日本人の乗務員に頼んだら快く引き受け説明してくれ、とても親切だったので「ご親切にありがとうございます」と言ったら、「これは私たちの仕事ですから」とニコッとしてくれた。なんて親切だろうと思った。

■ 宮城学院の生徒さんたちとの触れ合い
　今回の来日は宮城学院創立130周年記念行事「出会いのちから　新しい歴史のページが始まる」に村上と参加するための招聘である。
同大学の講堂で行われる記念式典への参加や講演、生徒さんたちへの授業、文化祭、お母さん方へのアフリカ料理の講習会、その他多くの行事への参加日程が組まれていた。
また市内のホールで仙台の他の団体とのパネルディスカッションにも村上と参加した。すでに私の名前は生徒さんたちがよく知っていて、朝学校に行くと窓から大声で「アワさん　おはよう！！」との声がかかり、廊下を歩いていても私の服が珍しいらしく触ってみたりした。
日本に来るために私は付け毛をし、長髪にして細い三つ編みにしてきたが、それにも触って「スゴーイ　スゴーイ」と言うので、私もこの言葉を覚え、びっくりした時には「スゴーイ」と言うことにした。
帰る時にも校庭から生徒さんが集まって来て「アワさん　さようなら」と言ってくれて、とてもかわいかった。このように私の名前を知ってくれていたのは、マリにいらした鈴木理恵先生が創立記念週間の行事を生徒さん主導で行うために、その準備を通して生徒さんたちの役割を分担し、折に触れて私のことを説明していてくれたためだという。とても初めて会った人たちとは思えなかった。
それから、仙台案内担当の生徒会長と他の生徒２人が、私と村上を水族館に案内してくれた時にも、とてもよく世話をしてくれ、アイスクリームを買って来てくれた。とても美味しかった。すべてマリとは違う世界が広がっていた。
　文化祭では生徒さんたちの部活の発表や展示物も見せてもらい、マリの工芸品紹介コーナーではマリの衣装をボディーに着せた。
この日は鈴木先生もマリの服装で、とてもよく似合っていると思った。カラの販売コーナーも生徒さんたちが担当してくれた。
茶道部の抹茶席に鈴木先生と入り、日本人のように抹茶をいただいた。抹茶のいただき方を事前に教えてもらっていたので、チャントできたら、周囲のお母さんたちも鈴木先生も驚いていた。
とてもいい気分だった。茶道部の生徒さんたちはみんな着物を着ていて、汗をかいてかなり大変そうだった。このような生徒さんたちの文化祭はマリでは見たことがなかったのでとても興味があり、私も学生になったような気分だった。

■ 講演について
　　日本に着いて数日後にカラが私の歓迎会を開いてくれたので、マリで会ったことのある多くの人に出会えて懐かしかった。準備されたレストランで中央に座り歓待されたのは初めての経験であった。
翌日は村上と赤十字病院へ見学に出かけたが、マリの病院とは全く違い、素晴らしい設備と親切な人たちの仕事ぶりに「私はこの病院で働きたい」と村上に言った。「それは無理、もしアワが日本人と結婚して日本国籍になったら日本で働くことも可能かも知れない」と言われた。
子供の頃に住んでいたアビジャンの病院に似ているところがあった。
次に私を待っていたのは村上と一緒に行う講演会だった。それらは既に日程が決められて準備されていた。助成元へのあいさつを兼ねた活動成果の報告会のようなものだったが、カラを支援してくれている会の名前は常に村上から聞いていたので、メンバーの方々とは旧知の間柄のような気分だった。
ＷＦ基金や日本中近東アフリカ婦人会の方々への活動報告会では、ご支援によって確実に村の女性の生活が変わり、収入を得るようになったことを説明し、満足して下さったのではないかと思った。質問も多かった。
　このような報告会の時には、マリの女性の現状や立場・自立への道などをメインに紹介し、女性の抱える問題についてカラがどのような方法で支援を続けてきたのか、そのたどってきた経過と成果の説明をした。
その時には、私も一人のアフリカの女性として、自分の生い立ち、境遇や家族内での立場なども説明した。時々バンバラ語が入るので村上の通訳は私には都合がよかった。
高崎市のパース大学での講演会の時には東京駅から初めて新幹線に乗った。丁度昼食時だったので、村上が弁当を買ってくれた。何が食べたいかと聞かれても、よくわからずに返事が出来なかったので、オレンジジュースとサンドイッチを頼んだ。日本のオレンジジュースは本当においしかった。この後いつもオレンジージュースを頼んで飲んでいた。
初めての新幹線はウキウキ気分で嬉しかった。この大学の生徒さんたちはみんな医療関係の技術を学ぶ生徒さんたちであり、発展途上国の医療に興味を持っているようだった。
7月31日には､カラ主催のトークイベントを行い、私が「マリの女性の姿」、セネガル人のマンスール ジャニュ氏が「アフリカ・アフリカ　と言うけれど・・」、最後に代表の村上が「支援を振り返って」 と題して講演した。
この時の司会はカラ常任理事の薛氏であり、通訳を伊禮氏が担当してくれた。和やかで楽しかった。

■ 仙台で
　私にとって２度目の新幹線で仙台へ向かった。車窓からみえる田舎の田園風景は絵のようにきれいで、川の流れも山も林も緑が濃く、畑も田んぼも線で引かれたようにきれいで、全く見飽きることがなかった。
仙台に到着した初日は、宮城学院で先生方の会議で初めてのあいさつをした。皆さんには鈴木先生が紹介して下さった。毎日何かしらの計画が組まれていた。創立130周年行事の企画委員の生徒さんたちにも紹介していいただき、ランチをご一緒した。
中学生の社会科の授業では「マリをよく知る」という内容で、質問形式で授業が進められ、いろいろな質問があった。１年生は非常に活発で手を挙げて質問をしてくれたが、高学年になるに従い無口になる印象だった。授業の最後にはダンスをしたり、マリの衣装を生徒さんに着せてあげたりした。しかし生徒たちは私の周りを取り囲むだけで、恥ずかしがって踊らなかった。これはマリの生徒たちとはかなり違うように思った。
授業の時に「フランス語を覚えて来たので聞いてください」という生徒さんが一人いた。これらの授業で生徒さんたちの頭にはマリの印象が強く焼き付いたと思う。
　8月21日開催、宮城学院中学校高等学校の主催によるトークイベントが開かれ、テーマの「世界の女の子の問題を考えよう」に参加した。この時の放送担当は宮城学院放送班だった。
多くの部門を生徒さんが受け持ってくれた。今回の来日の最大目的である「出会いのちから　新しい歴史のページが始まる」というテーマの、宮城学院創立130周年記念行事の式典の日は、朝からかなり緊張した。
この式典用に準備したグランブーブーを着た。この式典も生徒さんたちの主導で行われた。私はこのために招待されてきたので、30分間程度だが重要な挨拶をしなければならない。講演内容は村上と何回も練り直し、声を上げて読み、練習した。間違わないようにと念じた。講演テーマは「皆さんの支援に感謝を込めて」。
なんとか無事に挨拶が終了すると、村上が舞台に上がって来て私のグランブーブーについて会場のみなさんに説明をした。
当日午後は【トークセッション〜教育の持つ力～未来を創るということ～】に村上がパネラーで参加したが、通訳女性が説明をしてくれなかったのが残念であった。
この日は1000個の小型のジェンベ（アフリカの太鼓）が運び込まれ、在日南ア人の指導で講堂が割れんばかりの大音量でジェンベの指導が行われた。年配のOGの方々や校長先生もみんな一緒にジェンベをたたき、非常ににぎやかに過ごした。
舞台でダンスが始まった時には私も我慢しきれず、舞台に飛び入り参加して生徒さんたちと踊った。非常に楽しかった。
　16日間の仙台滞在中は、生徒さんたちとの交流だけではなく、支援をいただいていたカラヘルプ仙台の方々にもお目にかかることができたが、そこでも私の着ていた服はやはり珍しがられた。これまでの感謝を込めて村上とお礼の言葉を述べ、活動の成果を説明した。皆さん満足した様子だった。
そして美味しい昼食を共にした。私はティガティゲ ナ（ピーナツソース）を作って参加した。
　学校ではＰＴＡのお母さん方にマリ料理の講習会を開いた。これに校長先生も参加なさったのでビックリした。この日の料理は、鶏肉を入れたオクラのソース、カボチャのトウとトウジンヒエのモニ、皆さん美味しいと言って下さった。
計画されていた日程・内容を大切にクリアしていったつもりだが、しかし不十分だったこともあったのではないだろうか？　実際にマリを訪れたことがない方々は、私の話だけでは現状を理解するのは非常に困難ではないか？　と思った。
皆さんが自分のことのように心にかけ、助けてくださる姿を現地の村の人に確実に伝える義務があると感じた。
仙台での16日間が過ぎると日本での日程も残り少なくなった。
仙台から帰り、数日して村上と京都・広島への小旅行に出かけた。やはり新幹線に乗っての旅である。暑い京都をテクテクと歩くと、あまりの中国人観光客の多さに驚いた。買い物に来ているのだという。
さすがにマリでたくさん走っているのを目にする【ジャカルタ】というバイクは一台も目にしなかった。厳島神社にも行って船にも乗った。過去に原爆が投下された広島は美しい町であったが、原爆記念館で村上の説明を聞き、その時を想像して涙が出た。
確実に人が死ぬ、という行動を何故人はするのだろうか？　今のイスラム国も同じだ、互いに尊敬しあって話しあいで解決できないのだろうかと考えた。

■ 私のこと
　私は1971年6月生まれで45歳である。今回のように、日本に来ることになるとは想像したこともなかった。今回初めての来日で得た経験は、私に想像以上の驚きと喜びを与えた。
私は19年前村上に「勉強してカラのスタッフにならない？」と声をかけられ、即時に「ハイ」と言った。今考えると、この瞬間から私の人生が大きく変わったと思う。
　その後、カラの支援で直ぐに女性適正技術の研修でバマコに行き、今は亡くなったマダムジャワラの団体で技術を学んだ。また、ＪＩＣＡの事業を始めるにあたって再度バマコのアサコバファ診療所のドクタージャラの下で、保健コーディネーターとして２度にわたって研修を受けた。
このような経過をたどって現在の立場にたどり着いた。
　12人兄弟の丁度真ん中に生まれ、6歳の時にアビジャンの親戚へ預けられ、中学校までの教育をかの地で受けた。
結婚のためにマリの両親から呼び戻されたのが16歳の時だった。マリに帰国して高等学校へ進学し、助産師になりたいと思い勉強を始めたが家が貧しかったので叶わず、両親から結婚を強いられた。
娘が結婚するとその両親は経済的に豊かになるからである。しかし、隣国とはいえマリ人とコートジボワール人では意識がとても違っていた。私はそれが嫌で両親の進める結婚を拒否し、毎日のように父親に折檻され泣いて過ごした。
高等学校への進学をあきらめ、バナナやマンゴ・オレンジなどを皿に積み、頭にのせて毎日路上を売り歩き、その収入を母親に渡して家計を助けた。
適齢期をかなりすぎた27歳で結婚したのもこのような理由であった。
しかし、夫が森林技術者としてカラに雇用されたのがきっかけで、一緒に赴任先のバブグ村へ来た。何の技術もない平凡な主婦だった私が村上に声をかけられて、チャンスに恵まれ、助産師（学歴がないので国家資格は得ることが出来ない、診療所の認定だけである）の資格を得て、保健だけでなく適正技術やマイクロクレジット等、色々なことを村の女性たちに指導するようになった。
以前の自分でない自分がいる。神に感謝したい。
これからは、学ばせてもらったことをさらに多くの村の人たちに伝え、人々が幸せになるよう努力をしていきたい。
　日本での生活は毎日驚きの連続であり、毎日いろいろな新しいことを見、知った。カラの理事の方に案内してもらい、老人介護の施設も訪問した。東京観光の時にスカイツリーも見た。ビルとビルの間にまたビルがあって、そこを電車が連続して走っている。
村上がSUICAを準備してくれた。駅の改札口でモタモタしていると後ろから押された時「アッ、ここはマリではない、東京だ！！」と思った。エスカレーターの乗り降りもエレベーターに乗ることも覚えた。満員の電車で押されて「キャー」と声を上げたら横の男性に笑われた。目的地に着くためには何度も電車を乗り換えた。
早め早めに準備して他の人の行動に遅れてはいけないと思った。発展した国は目まぐるしかった。村上に「ホラ、ホラ」と注意されて過ごした。モタモタとのんびりしてはいられなかった。
「イン シャラー」（イスラム教で神の思し召しによって、と言う意味）と言って神任せにするような、マリでの生活感覚とはあまりにもかけ離れた現実社会であった。
しかし私は日本のことがとても好きになった。是非また来たいと思う。この場をお借りして、私のためにいろいろなことに心を砕いて下った方々へ、深くお礼を申し上げます。

出会いのちから　～グローバル教育を考える～／鈴木 理恵さん（宮城学院中学校高等学校　教頭）

出会いのちから　～グローバル教育を考える～（からばす35号より）
宮城学院中学校高等学校　教頭　鈴木 理恵さん

　今、政府は加速するグローバル社会に通用する人材育成を目指して、急ピッチで様々な政策を打ち出しています。
2014年度から始まったスーパーグローバルハイスクール（SGH）事業は、『高等学校等におけるグローバル・リーダー育成に資する教育を通して生徒の社会課題に対する関心と深い教養、コミュニケーション能力、問題解決力等の国際的教養を身に付け、将来、国際的に活躍できるグローバル・リーダーの育成を図ること』を目的とする、としています。
　これに連動するように2020年度から大学入試が大きく変わります。文部科学省は「高大接続システム改革」を検討してきました。
これまでの正解を導く入試ではなく、学び得た知識を用いて未知の問題にどのような答えを導き出すのか、正解のない問題を 記述する力が問われます。
それを自分の言葉で伝える力を求めています。これまでの知識偏重、正解を導き出す入試から「思考力」「判断力」「表現力」重視への転換です。
　それらを実践するために当然必要とされるキーワードは語学力です。文部科学省はグローバル化に対応した英語教育改革案を提示し「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能を積極的に使えるようになる英語力を身に付けることを目指しています。
何やらすごいことが始まり、日本の教育が大きく変わろうとしています。しかし「グローバル教育とは何か」という本質に迫らないと、新しい入試システムの対策に走りテクニックだけを習得すればよしとなってしてしまうのではないかと懸念します。
　私はグローバル社会を見据えた、学校独自のプログラムを持つことが大切だと考えます。
なぜなら、グローバル人材に必要な力や教養を育てる教育のやり方は決して一つではなく、様々な方法や手段の中から学校の教育方針や建学の精神、教育内容などと関連付けて、各校が実践をしていく中でその独自性が生まれてくると思うからです。
　本校では今年の8月、創立130周年の文化祭にマリ共和国よりカラの現地女性スタッフであるアワさんを招待することになりました。
12年間続けてきたマリの女性の自立を支援するという取り組みが、マリの女性にどのような変化や成果をもたらしたのか聞いてみようと生徒たちが招待状を書き始めると、マリと日本の距離がぐんと近づきました。
アワさんがやって来るという出会いが引き出すちからは、生徒の興味関心を大きく膨らませます。
　アワさんの渡航費用は昨年、自分たちが運営したバザーの収益金と退職教員からの募金で準備しました。12年前、英語の教科書でカラ代表の村上先生を知りその生き方に心を動かされて始まった小さなボランティアが、自分たちと同じ年齢の女の子が子供を産み母親となっている現状を知り、本当の自立とは何かを考えたとき、「教育」の大切さにたどり着きました。
そして10年前の創立120周年には全校生徒、保護者、教員が大きなバザーに取り組み識字教室を寄贈することができました。
　自分たちの学校もアメリカの宣教師の方の支援を受けて建てられたように、マリに学校を贈ろうとその思いを重ねたのです。
人と人が繋がるということはどんな力を生み出していくのか、そしてさらに10年後どのような学びに発展しているのか、夢を乗せたバトンは生徒の手でつながれていくことでしょう。

西アフリカ・マリで貧困撲滅に取り組むカラの草の根アプローチ／宮脇 卓さん（元世界銀行エコノミスト）

西アフリカ・マリで貧困撲滅に取り組むカラの草の根アプローチ（からばす34号より）
元世界銀行エコノミスト　宮脇 卓さん

　私は1974〜80年の6年間アメリカの首都ワシントンに本部のある世界銀行に勤務した。
世界銀行は第二次大戦後の復興と、開発途上国の開発支援をするためにIMF（国際通貨基金）とともに作られた国際機関である。日本も東海道新幹線の建設や、首都高速道路の建設に世銀からの借款（ローン）を受けた。
　世界銀行の業務は、民間ベースでお金を調達することが難しい開発途上国のいろいろなプロジェクトに、世界銀行債を発行して調達した資金を提供するというのが主要なものである。
世銀のプロジェクトは伝統的に道路、鉄道、電力などのインフラ建設が多かった。私が担当していたのはヨルダン、シリア、モロッコなどで、世銀を辞める直前の1978年に、シリアの高速道路プロジェクトへのローンの実行を担当した。
その道路も数年前から続く内戦の中で、多分ぼろぼろになっているのではないかと思うと複雑な気持ちである。
　1980年代に入って世界銀行をはじめとする国際援助機関のアプローチは、インフラ支援からもっと直接的に貧困解決を目指す方向に重点を移してきた。
しかし貧困の問題はまだまだ根が深い。
最近の世界銀行の報告書の中にある数字によると、貧困層を一人当たり1日の生活費1.9ドル以下としたとき、2012年の貧困層の人口割合は、東アジア・太平洋で7.2％、ヨーロッバ・中央アジア、2.5％、ラテン・アメリカ、カリブ海、6.2%、南アジア、18.8％、サハラ以南アフリカ、42.6%である。
開発途上国平均は、15.0%であった。マリを含むサハラ以南のアフリカの貧困層の割合が依然として非常に高い。
　カラのマリでの活動は、最初は医療支援から始まり、その後様々な模索の中から、識字教育、裁縫など職業技術訓練、診療所開設などなど、多様な現地のニーズに直接応え、しかも現地のヒト・モノを生かしていく方法が見いだされ、定着している。
貧困を撲滅する、生活水準を上げるといっても、その地域に合ったアプローチがある。
先進国の製品や技術・システムをそのまま持って行っても駄目である。現地にあるものを使って、自分たちの技術で生活水準を上げていくという、草の根の地道な努力が大切である。
カラのマリでの活動は、国際援助の活動・支援のあり方にも影響を与えていると確信する。さらなるご活躍を祈るとともに、若い人たちに受け継がれ広まっていくことも期待している。
　私とカラとの関わり合いは、1977年に現カラ代表の村上さんにワシントンではじめてお目にかかった時からの縁である。村上さんは当時モントリオールに住んでいて、休暇でワシントンに遊びに来られた。現理事の岡部浩子が私の妻の姉であったつながりである。
1990年代初めにカラがマリでの活動を始めて以来、一会員として形ばかりのささやかなサポートをしてきた。現地訪問への誘いも受けているがまだ果たせていない。

村民と共に活きている日本ＮＧＯ／田和 美代子さん（JICA国内事業部市民参加推進課長）

村民と共に活きている日本ＮＧＯ（からばす33号より）
JICA国内事業部市民参加推進課長　田和 美代子さん

　2011年秋、カラ＝西アフリカ農村自立協力会提案のJICA草の根技術協力事業を開始するにあたり現場を視察する機会がありました。
予想通り現地は、電気も水もなく携帯電話も通じない地域で、着くまでにこんなにも道が悪く、本当に人が住んでいるのだろうか、と疑問にさえ思うような地域でした。
しかし、到着した村の人は陽気で、集会には村中の老若男女が目を輝かせて参加していたこと、村には、ごみひとつ落ちていなかったこと等が印象的でした。
後から聞いたところ、村人たちが協力してトイレの清掃やゴミ捨て場の清掃などを月に二回行っているとのこと、前回3年間の保健のプロジェクト(これもJICA支援)で学んだことが確実に生活に溶け込み、村の人たちの手で実践していることが分かりました。
　プロジェクトマネージャーの村上さんからは、プロジェクト開始に当たっては、村人の生活や意識調査を戸別に行い、人々の生活や考えを正確に把握すること、そして村側の責任範囲とJICAの資金による事業でカラを経て行なう事を説明し、支援側の責任範囲をも明確に説明して進めてきた事を聞きました。
通常、東京サイドでの仕事が多く現地のあるべき姿を考えていても、実際には、事業の活きている姿を見ることは多くはありません。
このようなカラの片田舎での事業を視察して、10年、20年という長い時間をかけて人々の能力を信じ、信頼関係を構築して支援事業を行うことの大切さと、プロジェクトは生き物であることを再認識しました。
こんなエピソードも伺いました。
【エピソード】識字教育を始めた当初、カラは識字教師の育成研修会参加者に手当こそ出さなかったが、ノートやボールペン、食事（3食）、特に遠くから来る人たちには、泊まり込みである為、研修期間中、石鹸などのすべての品まで用意していた。
このようにする事が地域の習慣だったからである。しかし、余分な費用は無くこのような経費は助成金を申請できないと思い、その費用は村上さん個人のポケットマネーから支出するより他なく、そのための準備も大変であった。
ある時、これを完全廃止することに決めた。しかし、当初、カラのスタッフたちは、何も出さなければ誰も来ない、せめてノートとボールペンだけでも出してほしい、と猛反対したらしい。
しかし村上さんは、「とにかく、カラは何も出さない。みんなの子供が小学校で勉強する為に、親は毎月お金を出している。カラは村の人に何も請求しないで教えているではないか」と主張し、妥協しなかった。
村へ研修会の通知をしたところ、大勢ではなかったがちゃんと出席者があった。その後もこの方針を貫いてきているが、今では村から識字研修の要請が来るまでになっている。
参加者の中には、昼にトウジンヒエを持参するから午後も授業を続けたいと希望している人もいる。
　このような話を聞いていると、当初のカラさんからの提案事業に対し、現場を知らない私は、頓珍漢な質問やコメントを沢山してしまったと思いますが、時には分かりやすく、時にはぴしゃりと厳しい切返しがあり、とても緊張感のある打ち合わせでした。
1993年以来、部族のそれぞれに異なるマリ人スタッフと共に20年以上に亘り、村人の生活向上のための支援を行ってきたカラの姿勢と、明確で単純そうではあるが、貫く事が困難である理念を手に取るように理解することができました。
ODAの場合とは異なる立場のNGOでも個性的かもしれない事業の成果を目にし、JICAを背負って視察した身ではありますが、NGOのスタッフであるかのような錯覚にかられていました。

農学研究者としてマリで試みたい農業支援／神山 拓也さん（名古屋大学 大学院環境学研究科 研究員）

農学研究者としてマリで試みたい農業支援（からばす32号より）
名古屋大学 大学院環境学研究科 研究員　神山 拓也さん

　2009年にカラの協力を得て、マリ共和国にあるカラの支援する村を訪れてから5年が経過した。
その間に、マリ共和国では多くの犠牲者を伴う紛争が発生した。現在は新政府が成立し、国は安定しているが、近隣諸国からのエボラ出血熱の脅威に晒されている。
マリの国土は日本の国土の約3倍あり、地域ごとに民族は異なり、風土も異なる。私が2009年に訪問することができた村では、皆笑顔で、時間がゆっくり流れており、とても平和であるようにみられた。
そのような村の人たちの雰囲気に接し、以前の旅行記で記述したように、私はこれらの村人のために何かをしたいと強く思うようになった。
　村には電気も水道も通っていなかった。水は手で井戸から汲みあげ、飲用水にも野菜の栽培にもこの水が使われていた。この野菜栽培は、カラの指導で女性によっておこなわれていた。
村人の主食は雨期に栽培するトウジンビエで、プリンのように調理されたものと、野菜園から収穫された野菜を使ったシチュー状のものであった。また、換金作物としてワタが栽培されているようであり、化粧品に利用されるシアバターの原料であるシアーバターノキが自生していた。肉食用の家畜として、ホロホロチョウ、ニワトリ、ヤギ、ウシ、物を輸送するためにロバが飼われていた。乾期であるため、若い男性はほとんど町に出稼ぎにいっているとのことであった。
　滞在期間が2週間未満であり、その間は新しく目にすることに気を取られて、何が自分に支援できるのか殆ど思いつかなかったが、経験未熟で若輩ではあるが今思いつく限りにおいて、農学の研究者としてマリの村に対して支援できそうな事項を提案したい。
　私は、支援事業は村人が自分で考え今後の村の将来を思い描くことができるようになることが最も重要であると考えている。
これまでに、ラオスのある村の農業を調査する機会があった。そこでは現在伝統的な焼畑農業がおこなわれているが、より合理的で収入を得る事が出来る近代的農法への転換の為に､ゴムの木の植林やトウモロコシなどの換金作物の栽培を政府によって迫られていた。
しかし、一部地域では近代的農法へ転換したものの、私が調査した村では伝統的な農業体系のほうが好まれ継続されていた。理由は多様な機能を調査した結果明らかになったことだが、焼畑地で作物を栽培し、休耕地の森から植物や動物を採取して販売し、自家消費もできていたからであった。
グローバル化が進み、貨幣経済が浸透していく中で、都市にあこがれを持つ若者には金銭的な利益の少ない伝統的な焼畑農法を維持することは、非常に困難である。
しかし、ラオスの一部地域の村人は、セーフティネットが発達した伝統的な焼畑農法を選択していた。今後は、私が訪れたマリの村でも、電気や道路などのインフラが整いグローバル化が進み、貨幣経済が浸透し化学肥料や農薬などを使用する近代農業への移行を求められると思う。
しかし、それには金銭が必要であり、そのために利益の出る作物品種の選択や栽培を強いられる。この選択が悪いとは一概には言えないが、近代農業の功罪を村人は知る必要がある。そこで、今後発展していく途上国では、今までの伝統的農業技術をそのまま移転するのではなく、よりよい未来の栽培体系を選択する必要があると考える。
　以上の考えをもとに、私がマリの村に行って研究をおこなうことを空想した。それは、村人とともに現状の農業体系の欠点と利点を振り返り、加えて村の環境と人々に適合した近代技術を組み合わせた地域適合型農業体系ともいえるものを２、３年実施して、これに投入した労働力、生産量、金銭を明らかにするとともに、写真など目に見える形で労働光景や、失われるものと残るもの(笑顔、共同作業、伝統農機具や衣装、祭り、景観など)を記録し、字を知らない村人にも理解できるような今後の農業体系を作り上げ、教育材料として提供することである。

役に立ちそうな基本となる農業体系には次の２つが考えられる。
1　異なる植物種(野菜や樹木など)を同じ土地に混作することで、地上部空間や土壌をより効率的、かつ持続的に利用し、生産性を高めること。
2　作物栽培の場や家畜の放牧の場を村の回りで順繰りに変更していく移動耕作をおこない、土壌の持続性を高めること。

　以上を現地で村人と一緒に実施し、記録することで村人と円滑に話し合い彼らが受け入れやすい新しい技術を考えたい。そして、現地に適した技術ができれば、それを子供達に教育することで、マリの人々にとってよりよい未来を選択する手助けができると考えられる。 叶うのであれば挑戦してみたいことである。

震災と一通の手紙を通して／大内侑美さん（津田塾大学3年）

震災と一通の手紙を通して（からばす31号より）
津田塾大学3年　大内侑美さん

　去年の春、我が家に新たに犬がやってきた。白い、無邪気なお転婆娘である。名前は「マリ」。マリ共和国に因んで付けた名前だ。
現在渡航できない状況から、一層アフリカの遠さを感じてしまうことがある。そのため早くマリに行けるように、との願いを何も知らない子犬に託してしまった。マリちゃん、と名前を呼ぶたびにマリ共和国に近づいている気がする。
　「私に出来ることは何だろう」。日常が一瞬にして消えた3月11日。東日本大震災は私の想像をはるかに超えた。当時、受験生であった自分たちがどうなるのかと考えると不安でたまらなかった。震災後は日常が変わってしまい、不便で仕方なかった。
　スーパーに行けばすぐに買うことが出来る食料、夜遅くまで起きていても何とも感じない明るさ、蛇口をひねれば好きなくらい手に入れることが出来る水。私たちはそれを「当たり前」とし、突然失ってから不便だと感じる。いつもは並ばないで買える食べ物に、大勢の人達が長い列を作って手に入れようとしている光景をはじめは信じられなかった。春先のまだ寒い時期、灯油を買いに4時間並んでもタンクローリー車が来なかった時は愕然とした。
　　 　夜は暗く、風呂に入ることが出来ない。両親が仕事へ行かなければならず、私は家に一人でいることが多く、度重なる余震に恐怖を感じ、とても不安で怖かった。ようやく電気が回復した4日目、温かいご飯が食べることが出来た。風呂にも入れるようになった。ガスが復旧しないと風呂に入れない近所の人達を風呂に呼び、近所付き合いも深まった。
　今回の大震災でインフラが崩壊してしまった時に初めて、作られたものの脆さと心の脆さに気付いた。そして「困ったときはお互いさま」をより意識するようになり、助け合いが大切であることを改めて感じたのだった。
海外からの支援は震災直後の時点で、142の国と地域からあり、その中には途上国と思われる国からの支援もあった。沢山の義援金を送ってくれた国もある。国の大小、金額の大小に関わらず支援の有難さを感じた。
　一か月ぶりに登校出来るようになると、玄関正面口には支援先のマリからお見舞いの手紙が掲示されていた。私の母校である宮城学院では、2004年から文化祭の活動を通して、バザーの収益金をカラを通して西アフリカ・マリ共和国に送り、その資金で識字学校を建設し、村の女性の自立や子供の育成を支援している。
読み書きが出来るようになったことで、遠く離れた私たちのことを心配してくれる、その手紙にとても感動した。
この手紙がきっかけでこれまで母校が支援を続けてきたことに改めて興味を持つようになり、手紙をくれた村長を身近に感じお会いしたいと思うようになった。そして、今までは私の中で遠いアフリカであったが、その距離が少し縮まった気がした。
　「自分達に出来ることは何か」という原点から始まった宮城学院の生徒会のマリへの支援。助けたい・役立ちたい、という思いは、一方通行の片思いではなかったのだ。
このように支援が確かに実を結んでいるということを知った時、私はマリの発展に携わりたいという強い思いに駆られた。
受験生だった私は、マリのような発展途上国の経済を学ぶため、進学先を急遽変更し、今の大学を受験した。そして、
晴れて大学生になった私は、長期休みになったらマリに行けると思って舞い上がっていたが、2012年3月のクーデター以来、外務省が邦人に対して退避勧告、渡航延期勧告を出していることを知ってしまったのだった。現実はとんとん拍子には進んでくれないらしい。
　現在私は、大学に通う傍らカラの手伝いをしてマリに行ける機会を狙っている。現地での活動の様子を少しずつ覚えながら、必須となるフランス語と格闘している最中だ。
今の私に出来ること、それはいつ状況が変わったらすぐに飛び出せるように準備をすることである。マリに行ける日が来るまで、少しずつ準備を進めていくつもりだ。

マリの村の草の根支援にふれて／原 若葉さん（弁護士、JICA客員専門家､カラ理事）

マリの村の草の根支援にふれて（からばす30号より）
弁護士、JICA客員専門家､カラ理事　原 若葉さん

　今から13年前、ふとしたきっかけで、途上国の子どもを支援するNGOにスポンサーの申込みをしました。
数週間後、手元に送られてきたのはマリの女の子のプロフィール。姉妹の村を訪ねたのは、それから8年後の2007年でした。
　すると帰国後、不思議なことに次々にアフリカやマリに関心のある方とつながりが出来、かねて途上国の識字支援をされている先輩方から、ぜひマリで識字教育をやってほしいと強く勧められ、もういちど教育環境の視察旅行を計画しました。
このとき、カラの活動を知って連絡を差し上げたところ、折よくバマコに村上さんがおられ、村に連れて行って頂けることになりました。これが村上さんとの出会いです。
　晴れた秋のモバ村の一日。木陰のテーブルの上の月次報告を前に、村上さんが現地スタッフのスマイラに何やら説明を求め、質問をくり返しています。
それが終わると鶏肉とオクラとトマトの美味しいマリ式ぶっかけごはんの昼食。村では、小中学校や識字教室をはじめ、教育施設をすべて見せて頂き、使われ方や建設経緯のいきさつも教えて頂きました。
　道中で伺った大規模NGOや国連関係機関の活動についての村上さんの見解には、反省するところもありました。
例えば、私もNGOの現地職員の言うなりに、米など大量のお土産を用意して村に行きましたが、やはり当初の自分の感覚でノートを100冊買えばよかった、等。
何が申し上げたいかといいますと、カラの実践している活動が、対象地域の村や人々の隅々まで目を行き届かせて行われ、その細やかさと誠実さが、じつに現地の末端の支援の受け手のニーズをふまえたもので、大所高所から押えるべきものを押えてもいて、これが良い意味で日本的でもあって、マリの村に停滞している必ずしも良いとはいえない何かを良い方向へ導く刺激になっている、と実感するのです。
そして、それが独特の凛々しい強さで貫かれ、ぶれないこと。これがカラの良さ、素晴らしさであり、魅力です。（カラの優秀な現地スタッフが、誇りをもって働いている理由もこの辺りにあると思います。）
　 　さて、昨年マリを再訪し、コニナ村に泊めて頂きました。マリ名物の乗り合いバスにぎゅうぎゅうずめで数時間。気持ちのよい明るい場所です。
人としての原点に戻れるのか、元気になれます。伺ったのは5月で気温40度を超える灼熱でしたが、マンゴーは食べ放題です。ご関心のある方、是非、視察訪問されることをお勧めします。
　かつて支援していたマリの女の子のタタちゃんは、ボランティアの助けなしに手紙を書くことなく、10代でお嫁に行きました。
そんな事もあり、マリの教育や人々の暮らしにはずっと関心をもっていたいと思っています。
マリに行くと、なぜか不思議に新たな展開があるのですが、カラの活動は、村上さんらしい質実剛健さとお洒落さで、変わらずに展開し続けて行くことを期待し、願っています。

カラの第2回毎日地球未来賞受賞に際して／岡部 浩子さん（カラ理事）

カラの第2回毎日地球未来賞受賞に際して（からばす29号より）
カラ理事　岡部 浩子さん

　カラを長年支援して、今回の受賞は本当に嬉しいことである。
私はカラの代表の村上と大学が同窓というよしみで組織に関わっている。近年特にボランティアとかＮＰＯという単語を耳にするようになったが、果たしてこのような活動はどれだけ社会的意味を持ち、成果を挙げているのか、また成果を得ることが出来るのか、と内心は疑問に思うことがあった。
折に触れ、カラの活動報告を聞き「ソーなのか・・・」と思い、会での立場上カラの活動を多くの人に広報するよう試みたが、思うような発展を見ないことが多かった。多くの人にとって、目先のことや自分の世界のことが優先的に､またはそれだけが関心の対象であるような感じがしていた。
　しかし、今回の受賞を機に発展途上国で我々が後押ししている支援活動の成果が認められ、評価されたことを改めて認識し支援する側には非常なモチベーションになった。
私がカラを支援するきっかけとなったのは、ある時期まで音信普通であった村上から「今、西アフリカから戻ってきたばかりなの、会いましょう」という突然の電話から始まった。その後にマリで撮った写真を沢山見せられ､状況を聞き、現地の人たちの貧しい生活を想像し、その気にさせられてしまった。一緒に話を聞いていた亡き母も深い興味と感銘を受け、私たちの知らない世界に驚き、マリの人々にとって現実的に必要とされていることは、我々の専門分野である医療問題以前に、食料不足の毎日に何を食べるか、どのようにして収入を得るか、ということが大きな問題であると聞かされた。
そのことは深く胸に突き刺さった。よく耳にする、時間があるから、とか、ボランティアが好きだから、と言うこととは次元の違うボランティアとしての意識と活動であることを知った。
　すっかりその気にさせられた私は、地元の八王子での講演会を何度か企画した。
特に印象に残っているのは、八王子いちょうホールでのマリ国立民族舞踊団の公演が、圧巻であったことである。貧しい国にこんな素晴らしいものがあるのか、と改めて知らされた。ホール一杯の観客に胸をなでおろしたのが記憶に新しい。
開演直後の大音響のジャンベ、バラフォン、トーキングドラムの合奏、それに続くマリ各地に伝わる命の舞踊をダイナミックに演じていたダンサーの迫力、「マリの音楽と踊りは素晴らしかったね」と今も語り草になっている。
　現地へ行った経験はないが、会への支援を機にマリ人スタッフとの交流を深めることが出来たのも、私には大きな出来事であった。
マリで現地の活動を責任を持って総括しているジャワラ氏、最前線にいるスタッフなど、代表の話を聞くたびに思うことがある。それは、恵まれない状況の現地の人たちも私も同じ一生だと改めて自覚し、共に生きることの本質を考えることである。日々の仕事に追われ、振り返ることなく流されがちな毎日ではあるが、カラが今回の受賞に与ったことが私の意識に何らかの変化を来たしていることは確かである。
それは、当然のことながらマリの人たちと共に生きていることを認識しながら、日々丁寧に生活していくことであるように思う。

アフリカ人強し、カナダ移民事情／ギンドー 加藤 聡子さん（JICAガボン事務所企画調査員）

アフリカ人強し、カナダ移民事情（からばす28号より）
JICAガボン事務所企画調査員　ギンドー 加藤 聡子さん

　私が過去に青年海外協力隊員として暮らしていたニジェールの農村では、多くの男性が出稼ぎに行っていました。
隊員活動の終了後にガーナ、トーゴ、カメルーンを回りこれら出稼ぎ者の様子を見に行ったことがあります。
ニジェール人の主な出稼ぎ先は西アフリカ内で、農繁期には村に戻ってくる人も多くいます。マリのソニンケ族は家族代々出稼ぎで生計を立てており、海外の出稼ぎ先へ家族メンバーが交代で出かけているようです。
　昨今は、彼らに限らず多くのマリ人はチャンスがあればアフリカ内だけでなくヨーロッパ北米、さらには日本へも出て行きます。移民先では、運転手や工員、商人、老人の介護人になっている人が多いようですが、留学という形をとってから移民となる例もあります。
事実私の夫も、マリの大学だけでの勉強ではもの足りなく、更にカナダの大学へ留学しました（2003年）。
卒業後は、学んだことを活かし現在はカナダで仕事をしています。私が２人の子供を連れて時々訪れるカナダで、アフリカから移民した人たちについて感じたことをご紹介したいと思います。
　私の家族の住む地域でも、最近は多くのアフリカ人による出稼ぎを超えた移民が見られます。特にケベック州は､フランス語圏ですから西アフリカからの移民が多いです。
しかし､このような人たちは、不足している労働力の補いのための出稼ぎ者とは違い、安定した職業を望んでいますが、職業に就くのは大変な苦労が付きまといます。一般的には留学生としてビザを取得し、卒業資格を得てから職探しを行い永住ビザを申請します。
　ただし、大学に入学しても本国の教育とは大きな学力の差があり､これを克服しなければなりません。卒業後も希望の職につける人の数はごく僅かです。
このように多くの移民にとって就職は楽ではないのです。多くの人は、様々なネットワークを使って一時的でも仕事を見つけ、生活費を工面しています。
しかし楽な生活ではないといえ、カナダでは社会保障が充実しています。
職探しをしながら医療費や子供の義務教育費は無料ですし､失業や生活手当てを受けることが出来ます。もし交通事故に関わっても保障という特典があります。
このような制度は、母国で仕事がなく日々家族に依存する生活よりも、自立できるのが魅力のようです。
　夫の住むアルバータ州は現在石油開発関連産業に勢いがあり、エドモントンやカルガリーはカナダでも最も失業率の低い町のひとつと聞きます。
同州は英語圏ですが、フランス語を話すアフリカコミュニティーもあり規模は小さいのですが、これを頼って安定した環境を求めて家族連れで移住する人が増えています。
安定した仕事があれば住宅ローンを組めますし､子供教育は本国より恵まれ､学校へ安心して通わせることが出来ます。それに移民アフリカ人にとって英語を話せるようになることは、とても憧れです。
子供は幼稚園の時から流暢に英語を話し始めるため、両親も英語で話すようになります。英語で生計を立てる父親だけでなく母親もまた子供に負けないくらい英語を覚えます。彼らの語学能力の高さには驚きです。
一方で残念なことに子供たちはフランス語とは縁がなくなり、僅かにかれらの部族語を家族内で話しているだけです。
　また父親だけでなく母親の中にも職業技術を身につけたり、英語の勉強を一生懸命にしている人もいます。
カナダへ移民して他の国の社会や人にふれ、男性だけではなく女性も学ぶことが必要だと気が付くのでしょう。彼らを見ていて、私は移民という行動を通して、それが単に夫の就職のためだけではないことを改めて知りました。
　それは、夫と共に移民してきた女性たちは、母国の男尊女卑の社会に生れて、常に一族の意思に従って嫁入りします。そして３年間子供が出来なければ家を出されます。勿論収入などありません。
女性側も子供をたくさん産み､よく働き､太ることが嬉しいことなのです。たとえ夫の家庭内暴力があったとしてもです。
ですから女性が素晴らしい秘めた才能を持っていても、芽を出す機会も無く一生埋もれたままでいるのが殆どです。
　故郷を離れ一族や慣習に縛られている状況を一時的でも絶っていることは、女性にも大きなカルチャーチョックを感じ、自立する心を与えてくれるのでしょう。
男性・夫と共通な意識を持って家庭を守り、子供を育て上げるようになって来るようです。
　カナダという外国での生活に適応し、夫と共に家族を守っているアフリカからの移民の女性たちの、美しくたくましい様子や、母国では目にすることも聞くことなかった能力が芽を出し、活き活きとして過ごす日々の姿を見て、私も学ぶことが多いのです。

学ぶ喜び、アフリカにつなぐ／鈴木　理恵さん（宮城学院中学校高等学校教諭）

学ぶ喜び、アフリカにつなぐ（からばす27号より）
宮城学院中学校高等学校教諭　鈴木　理恵さん

1．2004年「ＮＧＯカラ」代表村上一枝さんとの出会い 　西アフリカ・マリ共和国の貧困を救うために、わたしたちも力になりたい。同国の支援活動を続けている非政府組織CARA(代表村上一枝さん)の活動を英語の授業で学んだ高校2年生がこの支援活動に取り組んで８年目を迎えました。
教科書にあった『隣人の家が火事になったとき、あなたは助けませんか？』という村上さんの言葉に多くの生徒が共感しました。
また、歯科医だった村上さんが48歳の時にその仕事を辞めてまで西アフリカに懸けた、その生き方にむしろ心を打たれたのだと生徒は話しておりました。
｢勉強して終わりではなく、自分たちも何か役に立てないか｣。そんな思いを中高生が引き継ぎ2006年、宮城学院創立120周年の年に｢マリ共和国へ識字学校を贈ろう！｣と中高生が一緒になり文化祭で自分たちの手作り品によるバザーを企画、運営しました。
さらにPTA、中高の教員が参加して夢のようなプロジェクトを実現させることができました。この思いは、126年前の宮城学院も米国人の募金によって、ボランティアの精神から立ち上がっていること、明治のはじめに女子教育をスタートさせた本校の歴史に重ね合わせた宮城学院創立の原点に立ち返った取り組みとして展開されました。

　この支援活動の中で生徒たちが特に力を入れているところは、｢女性の自立支援｣を目的にしている点です。
マリ共和国では15，6歳で結婚をして母親となっている現状を学び、劣悪な衛生、栄養環境から乳児の死亡率は日本の30倍、エイズも拡大の一途、また一夫多妻制度の社会における女性の立場の低さから、女性が村で自立した生活ができるように願い、そのための具体的な支援を村上さんと相談しながら展開してきました。
この支援する内容を「相談して自分たちで決める」という方法が生徒の意欲を掻き立てました。これまで多くの生徒たちが経験してきた献金や募金活動は協力金を送ることが目的になっていました。
しかし村上さんは生徒にマリの実情を伝え自分達に何ができるのかを考えさせるところにボランティア支援の本当のあり方を問いかけたのです。それは、村上さんの活動の原点ともいえるとらえ方だったのです。
文化祭のバザーへの取り組みを通して8年間も継続させてきた原動力は支援のあり方を生徒自身に問い続けてきたところにあったのです。

　そうしてたどりついたのが｢教育の必要性｣でした。本質的な自立は教育にありました。文字が読めないために殺虫剤と粉ミルクを間違えて飲ませてしまい我が子を亡くしてしまった母親、お金の計算が出来ないために厳しい自然環境の中、丹精こめて作った農産物を安く騙し取られてしまうこともあるそうです。このような現実を提示され学ぶことが命を守ることであり、生きることにつながることを知らされました。もちろん最低限の生活物資は必要とされますが本当に必要なものはお金や物だけではないことに気づかされていきました。 　今この識字学校では、連日多くの老若男女が夜遅くまで自ら時間を作り学んでいます。遠いアフリカの片隅にある世界の果ての最貧国である｢マリ共和国｣が私たちの隣人となったこの取り組みをこれからも大切に支えていきたいと思います。

2．人が人を動かす
　実は、生徒はNGOカラの活動内容に共感したのではありません。村上一枝さんという一人の女性の生き方に心を動かされたのです。
当時、英語の授業を担当していた教師に生徒が感銘を受けていることを伝えると大変驚いていました。全く知らなかったというのです。自分は英語の教師として英文法や構文を一生懸命教えていたといいます。生徒は「このまま歯科医でも十分納得の行く人生を送れるはず、なのになぜその生活を辞めてまでマリの支援に自分の人生を懸けるのかと」そして、教科書にあった『隣人の家が火事になったとき、あなたは助けませんか？』という村上さんの言葉に多くの生徒が共感したのです。
さらに村上さんは言います。「支援の手はインドネシアやカンボジアなど東南アジアまでは広く届きます。しかし、アフリカにはまだまだ目は向けられていない。私の活動の地はユニセフでさえ入らない地域にある。」というのです。
首都バマコより北東へ220キロ、クリコロよりさらに100キロ北上します。
　現地では村上さんは厳しい存在でした。必要とされないものは絶対にあげません。支援したものが見当たらなければ必ず探します。筋の通らない要求や、要求されたものが活用されなければとことん話し合います。
いずれ自分がいなくなっても自立していけるような生き方を支援しているのだと思いました。

3．ボランティアとは・・・～人とのつながりを築くこと～
　文化祭でのバザーの活動は長い間宮城学院中高で取り組まれていたことです。しかし、以前のその方法は収益金を得てから「さあ、今回はどこに支援する？」といった話し合いでした。
目的がはっきりしない取り組みは、バザーへ出す作品の質、量とも提出状況が良いとはいえませんでした。そこで逆の手順を取ってみたのです。どこへどんな目的で支援したいのか。目の前に相手が見えると意欲は湧くものです。
村上さんを介しての往復でマリとの交流は8年目を迎えました。その間、識字教室で字を学び「生まれて初めて自分の名前を書くことができました。」というお手紙を頂きました。
そして昨年は、識字教室を贈った村の村長さんから震災見舞いのお手紙を受け取りました。現地のバンバラ語からフランス語へそして日本語へ訳されたものでした。その時、はるか遠いマリが身近につながったように感じました。
これまで支援の多くは物品でした。しかし、絶対的に物資が不足しているとはいえ物の支援には限りのようなものを感じていました。
与える側と受ける側、ボランティア活動のマンネリ化、活動意欲につながる新たな関わり方は何かと考えた時、それは物ではなく人との交わりだと思いました。生徒が始めたマリとの交流が更なる展開を築くために、私はマリへ行ってみようと思ったのです。
村上さんが20年かけて創りあげた輪の中に私も入れていただき、生徒が創り上げた女性の自立支援への取り組みの8年間を辿ってきました。
マリの民族衣装に身を包み堂々とした風格の男性、そして素敵な笑顔と凛とした品格を感じさせる女性達。一食一品の食事だけれど食品のバランスのとれた手間隙をかけた食事、日の出と共に始まり日没と共に終わる1日。豊かさと幸せの本当の意味を考えさせられました。
電気や水道がなくても、そこに人々がいて人が生まれ生活が営まれています。
本当の支援とは何かを考えた時、マリが発展し自立できるようにフェアな国際関係をお互いに築き結んでいくことではないかと思いました。その第一歩が人とのつながりを創ることだと思います。
細やかな心配りをしていただいたセイドゥに人の心の温かさを思い出し、何でも手際よくこなし、地域をまとめている笑顔の素敵なアワが私の憧れの女性となりました。そして今回の訪問で私の宝物となった出会いは、ママブグ村の女性センターで出会った女性たちです。 　世界の最貧国、西アフリカのマリにみた物資の圧倒的な不足と近代化の遅れ。さらに追い打ちをかけるような厳しい自然環境。しかし、そこで教えられた生活の知恵や食文化の豊かさ。
そして、そこで出会った女性たちの笑顔に現れる凛とした品格に圧倒されてきました。

アフリカに魅せられた男／秋山 清子さん（カラ会員）

アフリカに魅せられた男（からばす26号より）
カラ会員　秋山 清子さん

　夫、秋山忠正が他界して一年あまりたちました。個人的な思い出話はお聞き苦しいと思います。
ただ、あたら青春を太平洋戦争に投入せざるをえなかった世代、遠からず誰もいなくなってしまうこの世代への鎮魂の気持をこめて、その中の一人である秋山の歩みをたどりました。
　1943年秋、大学卒業と同時に海軍に入営し、海軍経理学校を経て主計士官となった秋山は、1945年8月15日、四国松山の海軍航空基地で敗戦の日をむかえた。「生きて帰ってきた。運がよかったね」これは秋山にとって聞きたくない言葉だった。
無謀な戦争に不信感をもちながらも、戦場に臨む彼らはみな、祖国と同胞のために命を捧げることだけが、自分たちにできる最善なのだと受け止めていた。秋山にとって生き残ったことは、不本意であり、死んでいった多くの戦友に対する負い目として、生涯消えることのない深い傷になった。
　それからは、戦後の復興のため経済成長の担い手として働いた。それなりの業績をあげ昇進もした。
だが、これでいいのか、単に企業の利潤追求のための努力にすぎないじゃないか。これが自分の真実の生き方といえようか。心の奥の負い目が頭をもたげてきた。
　そんなときに松山時代の戦友である伴正一氏との交友が再開した。当時、青年海外協力隊事務局長だった伴さんは、協力隊の活動について熱意をもって語った。秋山は眼のまえに新たな世界が開けたような感動をもって聞き入った。
秋山はやがて「協力隊を育てる会」にかかわり、60歳前後から現地隊員を支援するアフリカ行きをはじめた。少年のころから未知の世界への憧れをもっていたという彼は、アフリカの大地に魅せられ、そこで活動する隊員の意気に感じ、自分にできる支援を模索した。
隊員と接しては、欠点より長所を大切にし、相談事を持ちかけられれば親身になって一緒に考えた。ことに帰国隊員の就職については自分のできるかぎりの縁をたどった。
企業側も海外事業に派遣する人材を必要とする時期でもあって、帰国隊員の受け入れがうまくいった例も多かったように思う。
　アフリカ行きは協力隊支援にとどまらず、アフリカで活動するNGOのいくつかと、深いかかわりを持つようになった。そのひとつに村上一枝さんの、「カラ＝西アフリカ農村自立協力会」がある。
「このおばさん（れっきとした女史の村上さんに、何と失礼な）50歳にもなるというのに、一人でこのマリで大事業に立ち向かっている。大丈夫か、見ちゃいられない、しかし彼女の地道な取組みは本物だ、何か力を貸せることはないか」。
秋山もカラの活動にのめり込んだ。彼は何か役に立っただろうか。先日、私は村上さんに聞いてみた。彼女曰く、「先生は応援団長です」
―なるほど応援団長か、応援団長にはいささか道化的雰囲気があるものだ。時に辛口や毒舌もでるが、芯には愛情がこもっている。秋山の役どころだったかもしれない。
　もし危機があったら一緒に泥もかぶろう、という秋山の心づもりも杞憂だった。カラはみごとに成長した。村上さんは現地と日本とを行き来しながら、健康管理も怠らず、安定した精神力で、ゆるぎない活動をつづけている。
いま秋山はあの世から、「きみは成長したねえ、あと10年元気でがんばってくれよな」と慈父の心で声援を送っていることと思う。
私も亡夫とともに、カラのよき歩みを心から祈っている。

マリ訪問記／尾林 徹さん（武蔵野赤十字病院 循環器科）

マリ訪問記（からばす25号より）
武蔵野赤十字病院 循環器科　尾林 徹さん

　私は新宿から20分ほどの東京西部の武蔵野市にある赤十字病院に勤めております。
　縁あってマリ共和国、CARAの村に数日滞在するというつい先日までは考えてもいなかった貴重な体験をさせていただきました。見たこと感じたことこれからのことなど個人的な体験談を述べさせていただこうと思います。
仕事の性質上夜は遅くなることも多く、終電を気にするよりはと車通勤をしています。病院からの帰りには近くの駐車場から家まで2分の家路につきます。夜空を見上げると今夜も冬の星座がよく見えます。“オリオン”のリゲルとベテルギウス、シリウスにプロキオン、アルデバランに“すばる”、北の空には“カシオペア”、“北斗七星”と今年は夜空が澄んでいて一等星が見えていますが、夜空を見上げているとマリの村で村上さんの話を聞きながら一緒に見上げた満天の星空が鮮明に思い出されます。　 　昨年のクリスマスシーズンを挟んで8日間の日程でマリを訪問しました。リタイアしてからでは遅いと村上さんに言われましたので、少し焦りながら、今行かなければ次のチャンスは無いだろうと、あまり考えずに急遽マリ行きを決めました。が、そこからが大変でした。
村上さんからは行き届いたオリエンテーションをいただきましたが、西アフリカの案内書はありましたが、マリへの詳しい旅行案内など皆無で唯一村上さんから頂いた市内の観光地図のみでした。（英文ですが、Bradt Travel Guide Ltd. UK出版の“Mali”Michael Palin 著があります。）
　海外の経験といっても旅行代理店任せの学会参加がほとんどです。代理店に丸投げで頼めるわけもなく大丈夫なのだろうかと思いつつ、マリ共和国の在日大使館のHPを参照してビザ取得と黄熱病の予防接種など必要な手続きを出発から逆算して日程を決めるところから準備が始まりました。 行きはパリで一泊が良いとのお薦めでした。日本からマリのバマコ国際空港へは単純にエールフランスでパリ経由が良いだろうとシャルルドゴール空港（CDG）の近くにホテルを確保しました。拡張されたCDGは初めてで、昔の記憶は全く役に立ちません。土地観ゼロでの選択です。旅慣れた人には造作ないことなのでしょうけれども、若い時に”深夜特急”未体験のおじさんには相当ストレスフルな作業です。
　最近のフライト予約はネットで座席まで事前確定できますが、ボーディングパスに相当するのが、パソコンでプリントアウトしたペラペラの紙一枚のみでとても不安でした。国内線でも同様なので大丈夫、と思ってはいても、CDGで不慣れな英語で交渉する事になったらなどと考えると胃に穴が開きそうでした。何よりも心強かったのはバマコのホテル手配は村上さん任せでしたので、バマコまで到着すれば後はなんとかなるだろうということでした。
というわけで、快晴の成田から雪のパリ経由で、気温30度のバマコ国際空港に現地23時近くに無事到着と相成りました。入国審査後にタクシー乗車の押売りを断り切れずにいたところ、目の前にスカート姿の村上さんが立っておられました。「本当に来ましたね。」と記憶していますが、私も「来てしまいました、、、」と答えました。
　村上さんの成田からの未着の荷物をAM１時近くまで待ちましたがやはり届いておらず、その間空港の駐車場で待ちニコニコと迎えてくれたのがセイドゥさん（私にはセドゥと聞こえました）でした。トヨタの４駆でニジェール川を渡り市内のホテルまで送り届けてもらいました。ホテルも村でも心配していたネッタイシマカなどは滞在中を通じてほとんどいませんでした。初日から安眠熟睡の毎日でした。
　さて、翌日夕食に誘っていただいて、市内の中華レストランで大きな春巻きを食べ、ジャスミン茶を飲みながら、今に至るカラの活動や村のことなどお話を伺いました。先入観を持たずに現地を視察したかったといえば聞こえは良いですが、実のところ、何とかなるだろう精神で下調べもせずにいきなりやって来てしまったわけです。
　医療の現場にいて感じることは、ボランティア精神がいかに大切かということです。いかに欠けているかとも言えます。身の回り、自身のことに精一杯の毎日で、医療の原点は何であったのかを忘れてしまいそうです。シュバイツアー博士の「水と原生林の間で」を昔読んだことを思い出し、その原点ともいえる西アフリカ（ランバレネでなくともその近くには）に一度行かねばと常々思っていたことが今回マリ行きを決心した理由でもありました。
　村上さんの”視察にどうですか”に、背中をひと押しされてしまいました。とは言え、何か役に立てることが本当にあるのだろうかとは、東京を発つときから思い続けていました。
　その翌日は地区の診療所に向かいました。Dr、看護士、助産婦さんなど多数の人と会い、熱帯熱マラリア患者が点滴されている病室を訪れたり、出産直後のお母さんに会ったり、AIDS(SIDA)も多く、感染症の予防接種が大切な仕事であり、他にUNICEFのビタミン入りゼリーが提供されていることなども興味深く見せてもらいました。
　昼はジャワラお父さんとご一緒させていただきONGCARA事務所でパームオイルとピーナツオイルで煮込んだビーフシチュー風味の昼食をいただきました。庭でとれたオレンジとリンゴ（輸入品？）がデザートです。食事は自然に馴染める味付けでした。
現地で古くから植林に携わっている小島さんのお宅にもお邪魔して、庭の苗木を見せていただき、サハラ砂漠のトイレの話などを面白く聞かせていただきました。
　ニジェール川のほとりに聳えるLYBYAHOTEL（Gadhafi一族の経営）や中国有限公司の建設中の建物などを見ながら帰途に着きました。滞在中にコートジボアールの政情不安定が報道されましたが、チュニジア、エジプト、リビアの現在の政情は想像もできませんでした。わずか二カ月前のことです。海外での特にフランス語圏でのニュースソースはCNNやBBCに頼らざるを得ませんが、国内にいると全く分らないことが多々あることを今回の経験で強く感じました。日本人は外に出ていかないといけないですね。ホテルでもまず、Chineseか？次はKoreanか？と聞かれました。Japaneseは分かってもらえますが３番目でした。
　翌々朝、村に向かいました。丁度朝の通勤時間と重なりバマコ市民の生活を車内から見ながら、市内を抜けてニジェール川を右手にクリコロに向かいました。後からGoogleEarthで大体のところは辿れましたが、滞在する村に向かっていることしか知らずの全くのお任せの旅でした。
　クリコロから先は、アフリカのサバンナなのですが、西部劇に出てくるテキサスかサンディエゴ郊外といった感じの景色でした。クリコロ(Koulikoro)を抜けて北東に向かい次いでシラコローラ（Sirakorola）で右（南）に曲がると舗装路は無くなり大いに揺れましたが車酔いもせず300km 弱４時間余の後、途中、ケイタさんのお宅で昼食とティーで歓待され、バンバラ？（Baｍbara）の村の市場と授業中の小学校と女性農園に立ち寄り、CARAの宿舎、村に到着です。
　マンゴーの木を見たのも、パパイヤの木を見たのも、たわわに実をつけたバオバブの大木を見たのも初めてでした。村上さんのガイド付きのおかげで俄かに知識が豊富になり、また、セイドゥさんと村上さんのバンバラ語での会話も内容は分かりませんが、とても心地よい響きでした。清潔な建物の宿舎は周囲に広々とした草地が広がりユーカリの木が整然と並んで木陰を作っており、遠くにマンゴーの大木が数本望まれ、ロバがのんびりと歩いています。まさにユートピアでした。 　いよいよ現地視察が始まります。村の人々と宿舎の生活、お母さんたちの母子保健教室、栄養教室、村の助産所と保健所、小学校の建設予定地、村長さん宅訪問、工夫に満ちた改良台所、手汲み式の井戸、農園とパパイヤ、トウガラシ、レモングラス、満月の夜の識字教室、満天の星空、　地平線から昇る満月、日没後の人工衛星、遠くから聞こえてくるバラフォンと太鼓の音、、、サッカー大会、キャッチボール、病みつきになりそうな食後のティー、などなど。
　そしてこれから何ができるのか、何をすべきか、村上さんが揺るぎ無いレールを敷いていますので、レールを曲げてしまうのではないかという恐れもあり、次を考えるがのとても困難です。
　旅行記までで紙数が尽きてしまいました。核心については、また次の機会にといたします。単にお邪魔をしただけの粋狂な者にこのようなチャンスを与えて下さり終日お付き合いいただいた村上さんには心から感謝申し上げます。
　10年以上にわたり現地の人々に尽くされてきたボランティア精神の持続とその行動力に、心から敬意を表します。頂いたものが多すぎて、宿題と思っていますけど、どうやって回答をお返ししたものか思案の毎日です。“イ・ニー・チェ”

「同業者」から見たカラ／菅川 拓也さん（【緑のサヘル】事務局長）

同業者」から見たカラ（からばす24号より）
【緑のサヘル】事務局長　菅川 拓也さん

　カラの支援者の皆さん、「からばす」愛読者の皆さん、こんにちは。私はNGO「緑のサヘル」で事務局長を務めている菅川と申します。
　私と村上さんとの出会いは、もう17年前に遡ります。当時私はプロジェクト・コーディネーターとして西アフリカのチャド共和国に常駐していました。そこに村上さんが、わざわざマリ共和国から視察に来て下さったのです。現場視察に同行するうち、偶然二人とも岩手県盛岡市の出身であるばかりか、本家が県内の同じ村にあることが判りました。「まさか日本人がほとんどいない遠いアフリカの地で、同郷の人に会うなんて！」とお互いに驚き、すっかり打ち解けてしまいました。この時以来、お会いすれば「お姉さん」、「お兄さん」と呼び合うほど親しくさせていただいている次第です。
　私は西アフリカとそこに暮らす人々が大好きです。ここには素晴らしい伝統や文化があり、人々は互いに助け合いながら生きています。
　底抜けに明るくたくましい女性たち、智恵に富み慎ましく勤勉な人々、そして強い絆で結ばれた仲の良い家族－。
　時に高度成長前の日本の風景を垣間見、たまらなく懐かしい気持ちになることもあります。おそらく村上さんも同様で、それが活動を続ける理由の一つになっているのではないかと勝手に解釈しています。
　ところで、皆さんは西アフリカで活動している日本のNGOは幾つくらいあると思いますか？　西アフリカは遠く、生活様式も習慣も日本とは大きく異なります。また乾季の暑さはとても厳しく、雨季の疾病の多さも脅威です。そして恒常的な停電、断水、砂埃、政情不安－。日本人が生きていくには、あまりにも過酷な環境です。ましてやこの地で活動を続けていくことは、並大抵ではありません。
　実はこうした難しさもあって、西アフリカで活動する日本のNGOを数えるには両手で（ひょっとしたら片手で）足りますし、その中でも恒常的に日本人を派遣し続けているのは、おそらくカラと「緑のサヘル」だけでしょう。
　「緑のサヘル」は1991年に設立され、現在はブルキナファソ、チャド（政情悪化のため休止中）、タンザニアで活動を行なっていますが、当然のことながら活動は常に順風満帆というわけにはいかず、時には頭を抱えたくなるような問題も起きます。
　そんな時、私たちを励まし、力を与えてくれるのが、同じ西アフリカの地で頑張っているカラの存在です。
　皆さんがご存知のとおり、カラは長年にわたってマリの村落で活動を続け、着実に成果を上げ続けて来ました。NGOが一時の派手な活動で話題を呼び、手っ取り早く知名度を上げるのは、それほど難しいことではありません。
　しかし、長年にわたって活動を継続し成果を上げ続けるためには、実に多くのものが要求されます。まず現地の人々や生活に対する熱い思いがなければなりませんし、活動を継続する強固な意志、地道さを厭わない忍耐力を持ち続けなければなりません。
　また、これらを備えていたとしても、活動が現地の生活の実情に即した、真に必要とされるものでなければ、現地の人々の支持や参加を得ることは出来ません。最悪の場合には、成果を上げるどころか活動そのものが宙に浮いてしまい、その継続すら難しいでしょう。
　カラがこれまで成果を積み上げて来るためには、こうした幾多の難問を根気強く、一つ一つクリアして来なければならなかったはずです。そしてこれが実は奇跡的とも言える偉業であることが、「同業者」である「緑のサヘル」にはよく判るのです。
　カラの活動のきめ細かさは、私たちから見ても驚くほどですし、その取り組み姿勢は本当に真面目で堅実です。
　「からばす」には現地の様子が詳細に報告されており、活動に携わるスタッフや村々の女性たちの姿が生き生きと描かれています。そしてそこには現地で日々起こる出来事や事件、問題も包み隠さずに語られています。
　こうした正直さや現地との距離の近さもカラの大きな魅力ですし、これこそが本当の「顔の見える援助」ではないかと思うのです。
　皆さん、「カラ＝西アフリカ農村自立協力会」は間違いなく日本でも有数の「本物の」NGOです。他団体の私が口にするのは甚だ僭越であることは重々承知していますが、どうか今後ともカラへの応援をよろしくお願い致します。
　私たち「緑のサヘル」も精進を重ね、これからもお互いに励まし合って行けるよう頑張りたいと思います。
　2010年9月26日　ブルキナファソにて

キンシャサから／池田 憲昭さん（JICA保健アドバイザー）

キンシャサから（からばす23号より）
JICA保健アドバイザー（コンゴ民主共和国） 国立国際医療センター 国際協力局専門官　池田 憲昭さん

　私がアフリカに関わるようになって10年になろうとしている。
　カラの活動に比べればたった10年である。アフリカといっても、地方病院と地域を結ぶ仕事や保健政策や計画立案という仕事が中心で、カラのように地域に根差した地域のニーズに直接応えるようなことをしているとはいえない。
　だからカラの代表の村上さんと話す時はいつもそのどっしりとした経験に根ざした眼差しに圧倒される。村上さんには誰もがなれるわけではないと感じてしまう。
　カラの活動目標は、「村の人たちが、より健康で明るい毎日を送れるように支援すること」と明快だが、マリという最貧国でそのような活動をすることがどんなに大変なことか、隣のセネガルで仕事をしたことがある私には想像できる。
　とりわけ読み書きのできない女性が多いサブサハラ・イスラム圏の地方の村で、その弱い立場の女性たちが、ある日自分の才能に気付いて自主的な活動ができるようになっているというと聞くと、素直に驚きを覚える。
　カラの住民に寄り添って一緒に歩いていくという、生活に直結して息の長い女性らしい支援のたまものなのだろう。
　アフリカの子供と女性は、まだまだ弱い立場で様々な脅威にさらされている。特に地方の貧しい村では、妊娠に関係する体の不調に苦しむ女性や、赤ちゃんや子供の栄養失調や発熱、下痢を心配するお母さんたちを安心して支えるべき診療所や病院が近くても30キロも離れた町にしかないというようなことが普通である。
　やっと辿り着いた診療所でも、診察まで長時間待たされる、待合室の椅子は少ないので地べたで座らなければいけないこともある。
やっと診察が開始されてもお金持ちや診療所に勤めている人の知り合いから先に呼ばれる。
早く治療を受けたいのに、薬や治療費が足りないと金策にでかけなければならない、など本来なら診療所では主人公であるはずのケアをされるべき人たちが粗末に扱われるという事例がよく報告されている。
　このように診療所に来た人たちを、いつも関心の中心においてケアをするという当たり前のことができないのは、アフリカだけのことではない。
しかし資源の乏しいアフリカだからそういうことがあってもいいとは、保健に携わる人たちは決して言ってはいけないのである。
　最近私はアフリカで保健に関わる人たちが、診療所に来た人たちを、いつも関心の中心においてケアをするという気持ちを持つためには、どうしたらいいかを考えている。
そのような気持ちでケアする人自身の気持ちが穏やかになり、ケアをされる人はほっと安心できるというあたりまえの診療環境を作ることにお金はほとんどかからない。
そのような心持のケアラーを増やすことが、人材が少なく、薬や機材の乏しいアフリカにおいても、結局のところケアの質を改善する第1歩なのだと感じている。
　コンゴ河の辺にあるキンシャサの街は紛争後復興の途中であるが、大陸を潤す大河の創る空気が不幸な歴史を打ち消すかのように満ち満ちている。
その遥か遠方でありながら同じ大陸で活躍を続けているカラの住民に寄り添って歩くその姿を思いながら………。

愛知万博が縁で始まるマリ共和国との交流／大角 佳生さん（甚目寺町国際交流協会）

愛知万博が縁で始まるマリ共和国との交流（からばす22号より）
甚目寺町国際交流協会　大角 佳生さん

　2005年愛知万博が開催された時に、愛知県は一国一市町村フレンドシップ事業を実施し、万博に出展する海外の国々との交流の機会を県内の全市町村に提供しました。
　私たちの甚目寺町は、マリ共和国との組み合わせが決まり、それが縁でマリ共和国との交流が始まりました。
　万博開催中のマリ共和国ナショナルデーでは、町民が招かれ参加し、あるいは甚目寺町にマリ国立民族舞踊団を招き公演と町民との交流もしました。
また、駐日マリ共和国大使やマリ人を度々招き、国際交流の会や食文化などを理解し、交流を積み重ねてきました。
万博開催前から、ジェンベなど伝統音楽や理解を深める講演会などを開催したり、万博後は、マリ共和国館からバンバラ族の貴重な親子彫像、仮面彫刻、壁砂絵等が町へ寄贈され、交流の証となっています。
　また、2006年から町民が集まり国際交流推進ミーティングを開き、国際交流・多文化共生の視点から地域の将来について学習会を開きました。
その過程で国際交流協会の設立の必要性を感じ、2007年からは協会の設立準備にあたり、2008年に国際交流協会を設立しました。
その間にカラの村上代表にも来て頂き、カラの国際支援活動とマリの人々の生活の実態について詳しく知る機会がありました。
その結果、できることから無理をせず行動を起こす機運が生まれてきましたので、先ず多くの町民がマリへの関心と理解深めるため、誰もが取り組みやすい「マリ共和国・甚目寺町写真交流展」を実施し、写真を通して日常生活を互いが知る機会を作りました。
甚目寺からは500点の応募があり、マリからは300点の作品が寄せられ、駐日マリ共和国大使と大使館員などを招き、多くの町民が参加し、写真展記念の「国際交流の集い」も開き交流を深めました。
　また、子どもの頃からの国際理解、異文化体験の観点からアフリカ太鼓音楽講座「ジエンベ音楽講座」を開き、ジエンベ楽団が結成され、各地で活躍しています。
来年3月より３町が合併し新しく「あま市」となりますが、外国人への日本語教室、マリの井戸掘り支援など様々な形で国際理解・支援の環境作りをしながら、地域と世界における多文化共生社会を目指して活動を継続して行きたいと思っています。

女性に向けた国際支援／ヤンソン 柳沢 由実子さん（FGM廃絶を支援する女たちの会）

女性に向けた国際支援（からばす21号より）
FGM廃絶を支援する女たちの会　ヤンソン 柳沢 由実子さん

　「からばす」に原稿をとの依頼に、二つ返事で引き受けました。
と言いますのも、一年半前に岩手県盛岡市でカラの村上一枝さんと緑のサヘルの菅川拓也さん、それにFGM廃絶を支援する女たちの会のわたしの三人で、「アフリカで活動する岩手出身のNGO運動家たち」という講演会があり、自分の所属する会以外の二つの団体の発表に深く感銘を受けていたからです。
　それぞれがアフリカ支援活動をしているのですが、ふだんは自分たちの活動で精いっぱいで、他団体が取り組んでいる問題を深くは知りませんでした。
村上さんのマリの村々での具体的な活動報告に勇気を与えられました。とくに女性支援のプロジェクトに関心をもちました。わたしたちの団体もまた女性支援の団体です。
　アフリカには53の国があり、人口もアジアに続いて多く、出生率死亡率は世界一高い地域です。
ほとんどの国がヨーロッパ諸国の植民地だったため、長年にわたる搾取によって土地も人々も疲弊しています。ようやく独立を勝ち取った後も、紛争、自然破壊、食糧難、疫病、貧困とつぎつぎに災難にみまわれ、発展がはばまれています。
　いままでアフリカと関係のあった国なかった国を問わず、世界中の国と人々が、この困窮している地球の一地域を援助し発展に協力しなければならない段階に至っています。
　総体的にアフリカを見ればそういうことなのですが、1996年に「FGM廃絶を支援する女たちの会」を立ち上げたとき、わたしはそんなことがわかっていたわけではないのです。
特別にアフリカに関心があったわけでもありませんでした。『喜びの秘密』（集英社刊）という女性性器切除（FGM）をテーマにした小説を訳したことがきっかけでした。女子割礼という名前で主にアフリカで行われてきたこの慣習を扱った作品です。
　わたしは1995年にこの本を刊行した後、同年の9月に北京で開かれた国連主催の世界女性会議で、FGM廃絶運動をしているアフリカの女性たちに出合いました。
そしてこの伝統は慣習化された女性に対する暴力であると訴える彼女たちの話を理解しました。この会議の報告書で国連は「FGMは女性に対する暴力、人権侵害、健康破壊、女児の虐待である」と位置づけています。
　結婚のための通過儀礼とされ、女子割礼と呼ばれてきた何千年もの慣習の実態が性器の切り取り（FGM）であるということが判明したのは、いまから30年ほど前のことです。
FGMにはWHOによる分類によれば三つのタイプがあり、クリトリスの一部あるいはぜんぶを切り取るものから、すべての外性器を切除した上縫合するという過酷なものまで現在でもおこなわれているのです。
この行為を女性性器切除と呼ぼう、女子割礼と呼んでいるかぎりその残酷な実態は伝わらないから、と用語を変えたアフリカの運動家たちの意図に共感して、わたしたちも女子割礼という言葉は使わず、女性性器切除（FGM）と呼んでいます。
　この話をすると、たいていの人は「でもそれはいまでは終焉を迎えている古い慣習でしょう？」と訊きますが、残念なことに廃止運動がある現在でも1億3000万人もの女性がFGMを受けているのです。
女性の社会的地位の低さ、識字率の低さ、男女の力関係、性と生殖に関する迷信などが廃絶を妨げている要因と考えられます。
FGM廃止の呼びかけは、社会の成り立ちそのものの変化を迫るものなので、廃絶には時間がかかります。でもその間にも1日8000人、年間300万人を超える少女たちにFGMがおこなわれてしまう。
　わたしたちは日本で一つだけのFGM廃絶支援団体ですが、この慣習を立ち上がったアフリカの人たちと力を合わせてストップさせたいと願い、支援活動をしています。
　からばすの読者の皆さんもどうぞご理解くださいますようお願いします。

北斗七星の示す道／鶴田 真由さん（女優）

北斗七星の示す道（からばす18号より）
女優　鶴田 真由さん

　今回初めて番組の取材の為、ＣＡＲＡの活動を見させて頂きました。
今まで、ボランティアやチャリティーと言った言葉にどこか拒否反応があり、疑問を感じるところも多かったのですが、今回村上さんと話をさせて頂いて、その活動を見させて頂き、関心したことが沢山ありました。
そこにいる人たちが自立して生きていくことが出来るための支援。無くなったら終わってしまうような物資を送ったり、どこに流れているかわからない資金を調達しているのとは違い、村上さん自ら現地に赴いて井戸を作り、そこから発展させて様々な生活に関するアイディアを提供なさってきている姿をみてその生き様に頭が下がる思いでした。
　職業柄、人の歩んで来た人生を想像して膨らませることがどこか癖になってしまっている私としては、５０歳を目前にして新たな人生を歩み始めた村上さんにとてもドラマチックなものを感じてしまったのです。
お聞きした話の中でも、サハラ砂漠でトワレグ族の人と生活をしている時のこと。
「北斗七星の方角へ歩いて帰れば寝泊まりしているところに着くよ」と言われ前も後ろもわからぬような砂漠の暗闇の中、星だけを頼りに一人トボトボと歩いている最中、いきなり雲が流れて来て北斗七星を隠してしまったことがあるそうです。
女一人で何も知らない地に乗り込んで、人に何を言われようと頑張って自分の信念を貫こうとただただ突っ走ってきている最中にいきなり座標軸を失い、ぽつんと砂漠に放り出された時、一体何を思ったのだろう？　と考えるだけで人ごとながらにゾクゾクしてしまうのです。
そんな今まで生きてきた中で、経験もした事のないような時空を越えた瞬間の出来事は、さぞかし忘れることの出来ない貴重な思い出の一つなのではないだろうか？　そう思うだけで涙が出て来てしまうのです。
　たまたま今回の旅の前にパウロコエーリョ著の「アルケミスト」を読み、旅の最中に「スーフィーの物語」という本を読んでいたので、このような出来事をただの現実的出来事とは思えず、サハラの神秘のように感じてしまうのは少々子供じみているでしょうか？
　そして、村上さんとの取材を終え、帰国途中の飛行機の中、この原稿を書きながら本の続きを読んでいるとこんな物語がありました。
　ある王が相談役のダルヴィーシュに「民に食べ物を与えるのと、知識を与えるのとでは、どちらの善行がより優れているだろうか？」と質問すると、そのダルヴィーシュはこう答えるのです。
　「―（略）―　彼らがあなたの施した食べ物を消化出来なかったり、あるいはそれを、あなたからの賄賂だとか、これからいくらでももらえるのだと考えるなら、あなたの善行は無駄になってしまいます。また、知識を授けられたとしても、彼らがそのことに気づかなかったり、知識と知識でないものとを識別する能力を欠いているなら、あるいは何故あなたがそのようなことをしているのか、その理由すら理解できないとしたら、彼らが恩恵を得ることはありません。したがってこの問題には、段階的に取り組んでゆく必要があるのです。あなたはまず、＜最も優れた人物には価値がなく、最も劣っているものこそ価値がある＞という真理について、よく考えるべきです。」と。（「スーフィーの物語」平河出版社より）
鶴田真由さん　プロフィール>

女優。成城大学文芸学部西洋美術史専攻。1988年にドラマデビュー。以来、映画、テレビ、舞台などで活躍。古代文明や美術史に造詣が深く、過去「トルコ紀行」（ＮＨＫ）、「素敵!!名画の旅」（テレビ朝日）などの番組に出演。男性から女性まで幅広い人気がありＣＭなどにも多数出演中。（撮影：設楽茂男）

日本がマリに学んで欲しいこと／マンスール・ジャーニュさん（カラ　友人）

日本がマリに学んで欲しいこと（からばす7号より）
カラ　友人　マンスール・ジャーニュさん

　さあ、いよいよ念願のワールドカップ日韓共同開催が5月31日にスタートします。
それぞれのキャンプ地もすでに決まり､残りは各国のプレーヤーとサポーター達を迎えるだけとなりました。
その中で、今日本の各メディアで取り上げられているのが、フーリガン（イギリスやドイツの熱狂的ファンで、相手チームと喧嘩をしたり、関係のない人も殴りあいに巻き込み死者が出ることもある。）対策です。
もちろんフーリガン対策は重要なのですが、しかし私が思うには日本がワールドカップ開催国として、世界のホスト国として、経済の面だけではなく、サッカー文化に対する責任です。というのは日本国民ほとんどがサッカーについてまだまだ疎いので、メディアや日本サッカー協会は国民に、サッカーとはどういうものか、ワールドカップとはどういうものかをアピールする必要があります。
　例えば、今年の1月から2月にかけてマリでサッカーのアフリカ選手権が行われました。
そこにはシドニーオリンピックでの金メダリストのカメルーンや、ワールドカップの日本の対戦相手であるチュニジアを含めたワールドカップ出場国5カ国も参加し、また世界最優秀選手に選ばれたこともあるリベリアのジョージ・ウェアーも出場しました。
開会式の光景や試合は、アフリカではもちろんのことヨーロッパ、南米、東南アジア、中近東と、世界の国々が生中継で放送していたにもかかわらず、日本のテレビ局は一つも中継していませんでした。それは非常に残念だと思います。
　カラの会員の方々もご存知のようにマリは貧しい国です。しかし、喧嘩や暴動もなく、あれほどの大きな大会を設備面でも治安の面でもトラブルもなく無事に成功させました。
人々は太鼓の演奏にボディペインティング、そして色とりどりの衣装をまとって相手チームのサポーターと一緒になって応援しました。マリ国民が一体となり大会を盛り上げました。
　メディアはフーリガン（暴力のイメージ）とサッカーを結び付けていますが、サッカーは、戦争に代わり、世界各国が平和的に集団で競い合う素晴らしいスポーツです。今回のマリで行われた大会は、ヨーロッパでは非常に高く評価されました。
日本も、平和的且つ友好的に行われたこの大会を見習い、単なる国対国の勝ち負けにとらわれず、いわゆる顔の見える民間外交と考え、これまで以上に他の国の人達を理解するようになると、この大会が世界の平和を結ぶものとなるように思います。そうなることを願わずにはいられません。